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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)53号 判決 1972年9月07日

東京都武蔵野市吉祥寺東町三丁目九番一〇号

原告

奥井繁敏

右訴訟代理人弁護士

鈴木巌

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被告

武蔵野税務署長

上滝益雄

右指定代理人

筧康生

大道友彦

大沢秀行

小宮龍雄

丸森三郎

得丸大典

右当事者間の所得税課税処分取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対し昭和四二年三月三日付の昭和四〇年度分所得税の更正、加算税の賦課決定通知書をもつてなした課税処分のうち、総所得金額を一、六六三、三一九円として計算した限度を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一、原告

被告が原告に対し昭和四二年三月三日付の昭和四〇年分所得税の更正・加算税の賦課決定通知書をもつてなした同年分所得税二、四三〇、五一〇円(審査請求の裁決により九五八、八〇〇円に減額)のうち九二、四二〇円(総所得金額一、六〇三、三一九円)を超える課税処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  原告は所轄の武蔵野税務署長に対し次のとおり昭和四〇年分所得税の確定申告をした

(1) 総所得金額

配当所得 一二七、九一二円

不動産所得 四二二、九〇七円

給与所得 一、〇五二、五〇〇円

計 一、六〇三、三一九円

(2) 所得控除

生命保険料控除 三五、〇〇〇円

扶養控除 二五〇、〇〇〇円

基礎控除 一二七、五〇〇円

計 四一二、五〇〇円

(3) 課税所得金額 一、一九〇、八〇〇円

(4) 算出税額 二二〇、七〇〇円

(5) 税金から差引かれる金額

配当控除 一九、一八六円

(6) 差引所得税額 二〇一、五一四円

(7) 源泉徴収税額 一〇九、〇九一円

(8) 申告納税額 九二、四二〇円

(二)  ところが、被告は原告に対し、昭和四二年三月三日付昭和四〇年分所得税の更正、加算税の賦課決定通知書をもつて左記のとおり課税処分の通知をなした。

(1) 総所得金額

配当所得 一二七、九一二円

不動産所得 四二二、九〇七円

給与所得 一、〇五二、五〇〇円

雑所得 一、九六六、二〇〇円

譲渡所得 三、六五二、六九一円

計 七、二二二、二一〇円

(2) 所得控除

生命保険料控除 三五、〇〇〇円

配偶者控除 一七、五〇〇円

扶養控除 二三〇、〇〇〇円

基礎控除 一二七、五〇〇円

計 五一〇、〇〇〇円

(3) 課税所得金額

総所得 六、七一二、二〇〇円

(4) 算出税額

資算所得合算の按分税額 二、五三九、六一〇円

(5) 税金から差引かれる金額 〇円

(6) 差引所得税額 二、五三九、六一〇円

(7) 源泉徴収税額 一〇九、〇九一円

(8) 申告納税額 二、四三〇、五一〇円

(9) 重加算税 七〇一、四〇〇円

(三)  そこで原告は、昭和四二年一一月二五日付で東京国税局長に対し、右課税処分のうち、雑所得一、九六六、二〇〇円と譲渡所得三、六五二、六九一円を認定した点および重加算税の賦課処分の点について審査請求したところ、同局長は、昭和四三年一二月二〇日付裁決書をもつて被告の右課税処分につき譲渡所得三、六五二、六九一円を計上して所得金額に加算した処分ならびに重加算税賦課処分の全部を取消したが、雑所得については審査請求を棄却した。

(四)  しかしながら、被告が原告の昭和四〇年分所得額の計算において右雑所得一、九六六、二〇〇円を加算したのは違法である。すなわち、

(1) 原告は昭和三八年二月五日頃訴外株式会社大野不動産社代表取締役大野隆夫より同会社が訴外桜井治兵衛から買受けることになつている東京都調布市下布田町二三一八番田五畝三歩、同町二三一九番田五畝五歩および同町二三二〇番田三畝九歩の三筆の農地(以下本件農地という。)と原告所有の東京都西多摩郡福生町大字福生字奈賀八八六番の三雑種地五畝一二歩(以下本件雑種地という。)とを等価交換したいとの申入れを受けたが、大野の説明では本件農地はいずれも公簿上訴外矢ケ崎矢七名義ではあるが、桜井が昭和三七年八月一五日頃買受け、その代金を完済したけれども農地であるため直ちに所有権移転登記ができないので、同日付売買予約を原因として東京都知事の農地法五条の許可を条件とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由しているというので原告は右申入れを承諾して同月一〇日の等価による交換契約を締結した。

そして、同日原告は大野より本件農地に関する桜井の仮登記済証、印鑑証明書および白紙委任状などの交付を受けるとともに大野に対し原告の右雑種地に関する登記済権利証、印鑑証明書、白紙委任状各一通を交付した。

(2) そこで、原告は、大野より受領した右書類を使用して同月一四日前記桜井名義の所有権移転請求権保全の仮登記を原告名義に移転し、同年五月初旬矢ケ崎に対し本件農地につき農地法五条による都知事の許可申請を求めたところ、同土地は既に財団法人東京都住宅公社の買上げ予定地となつており、都知事の右許可を受けることは困難であることが判明したので、原告は、大野との間で前記土地交換契約を解約したうえ、本件雑種地の所有権を原告へ返還するよう請求した。

ところが、同土地は既に中間省略により訴外中尾武、同三浦一夫と順次売買され、その旨の登記を経由している他訴外関沢靖策のため所有権移転請求権保全の仮登記もなされておつて、これを原告に返還することはできなくなつていた。

(3) 原告はやむなく桜井と折衝した結果、同人より原告に対し本件雑種地の時価相当額の金銭を支払うことにより原告も本件農地の所有権移転請求権を桜井に返戻することとなり、昭和四〇年四月一〇日その価額を一、二〇〇、〇〇〇円とする旨の納定をした。

(4) ところで、原告は本件雑種地を昭和三五年一一月二二日秋山左右助から代金二、一〇〇、〇〇〇円で買受け、昭和三八年二月八日所有権移転登記を経由したものである。従つて本件雑種地の譲渡利益を計上するとすれば、前記譲渡価額二、二〇〇、〇〇〇円より右取得価額二、一〇〇、〇〇〇円を控除した一〇〇、〇〇〇円となるべきところ、譲渡所得の特別控除額一〇〇、〇〇〇円が認められているから所得額は差引き零となる。

(五)  原告は、昭和四〇年六月頃桜井に対し一、〇〇〇、〇〇〇円を返済期限二か月、利息月三分の約定で貸付け、利息として同年六、七両月に各三〇、〇〇〇円合計六〇、〇〇〇円を取得したので、これは同年度雑所得として計上されるべきである。

(六)  以上のとおりであるから、被告が前記譲渡代金二、二〇〇、〇〇〇円を前記土地交換契約の違約金とし、また、右利息六〇、〇〇〇円をこれが遅延損害金として、その合計額二、二六〇、〇〇〇円を同年度の雑所得額と認め、うち一、九六六、二〇〇円により本件更正処分をしたのは違法である。

二、被告の答弁

(一)  請求原因(一)、(二)項を認める。同(三)項のうち審査請求の裁決においては原処分中譲渡所得を零とし、雑所得を二、二六〇、〇〇〇円と認め、所得金額三、三五八、八九一円を取消したものであつて、その余を認める。

同(四)項は争う。同(五)項のうち、原告が桜井から昭和四〇年において六〇、〇〇〇円を受領し、これが雑所得に属することは認めるが、その余は不知。

(二)  原告の所得の内容は次のとおりである。

総所得金額 三、八六三、三一九円

配当所得 一二七、九一二円

不動産所得 四二二、九〇七円

給与所得 一、〇五二、五〇〇円

雑所得 二、二六〇、〇〇〇円

三、被告の主張

原告に対する右雑所得課税は、以下のごとき根拠によるものである。

(一)  桜井は、昭和三七年八月一五日頃登記簿上矢ケ崎名義になつている本件農地を訴外金子猛夫から買受け、同月一六日中間省略により所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、さらに農地法五条の許可申請手続をとつたが、同農地は既に東京都住宅公社の買収予定地となつていたため、その申請は許可されなかつた。

(二)  ところが、昭和三八年二月初頃桜井は、株式会社大野不動産社専務取締役と称する柴田繁久より本件農地を東京都住宅公社の買収予定地であつてもかまわないから右会社において買受けたいが、社長大野隆夫に権利証などを見せて確認したいので、関係書類を預りたいとの申出を受けてその旨を軽信し、白紙の契約書(桜井の押印のあるもの)二通、仮登記済証、印鑑証明書各一通などを柴田に交付した。そして、同人より本件農地の売買代金支払方法として訴外中尾物産貿易株式会社振出の約束手形および小切手の交付を受けたがこれらはいずれも期日に支払が拒絶されたので、桜井は、直ちに柴田に対し右売買契約解除の意思表示をなすとともにさきに預けた前示書類の返還を要求したが、同人が言を左右にして遷延するうち、昭和三九年頃すでに原告名義の所有権移転請求権移転の仮登記がなされている事実が判明したので、原告らを相手として同年一二月二日付で本件農地に関して立川簡易裁判所より処分禁止の仮処分命令を得た。

(三)  大野不動産社の大野は、自分が原因をつくつた桜井と原告との本件農地をめぐる紛争に責任を感じて両者の斡旋に乗り出し、昭和四〇年四月上旬原告、桜井双方に対し、東京都住宅公社の買収価額が四、四〇〇、〇〇〇円であるからその半額の二、二〇〇、〇〇〇円を桜井から原告に対して支払うことにより原告は同土地に関する前記仮登記の抹消登記をするのみならず何らの権利をも主張しないこととする和解案を提示し、同月一〇日右両者がこれを受諾してその旨の覚書を作成した。原告が受領した二、二〇〇、〇〇〇円はまさに右和解のために支払われたもので、本件農地の交換契約や売買など行われた事実は存しない。従つて、これは何ら資産の対価たる性質を有せず、所得税法上譲渡所得や一時所得に含まれず、雑所得に当る。

(四)  原告が桜井より受領した貸付金利息六〇、〇〇〇円が雑所得にあたることは原告の自認するところである。よつて、原告の本件雑所得額は右の合計二、二六〇、〇〇〇円となる。

四、被告の主張に対する原告の認否

同(一)項は認める。同(二)項のうち、桜井が自己の押印をした土地売買契約書、仮登記済証、印鑑証明書などを柴田に交付したのは大野不動産社との間で本件農地の売買契約を締結するためであつて、桜井が受け取つた手形や小切手も同売買代金支払のために授受されたものである。同項のその余は認める。同(三)項のうち、大野が桜井と原告間の本件農地をめぐる紛争につき斡旋の労をとつたこと被告主張の日時に覚書を作成したことは認めるがその余は否認。

第三、証拠

一、原告甲第一ないし第二八号証を提出し、証人大野隆夫、同中尾武、同桜井治兵衛の各証言ならびに原告本人尋問の結果を援用。乙第二、第四、第六号証の成立を認め、その余の各号証の成立は不知。

二、被告乙第一ないし第六号証を提出し、証人桜井治兵衛、同得丸大典の各証言を援用。甲第一、第二号証、第五ないし第八号証、第十五、第二六号証の成立を認める。第四号証中官署作成部分、第一一号証中農業委員会作成部分、第一八、第一九、第二三、第二四号証中各銀行作成部分、第二五号証中官署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知。その余の各号証の成立は不知。

理由

第一  原告が請求原因(一)項記載の昭和四〇年分所得税の確定申告をなし被告が同(二)項記載のごとく所得税の更正・加算税の賦課決定をして原告に通知したこと、これに対し原告より雑所得一、九六六、二〇〇円、譲渡所得三、六五二、六九一円認定と重加算税の賦課の点につき審査請求をしたことは当事者間に争いがない。

また、成立に争いのない甲第二号証によると、原告の右審査請求に対し、東京国税局長は昭和四三年一二月二〇日付裁決書をもつて原処分中譲渡所得は零とし、雑所得については原処分より多い二、二六〇、〇〇〇円として原処分の所得金額を三、三五八、八九一円の限度で取消し、かつ、重加算税の賦課処分全部を取消したことが認められる(右重加算税賦課処分が全部取消されたことは当事者間に争いがない。)

第二  そこで、本件の争点である雑所得額について検討する。

一、桜井は、昭和三七年八月十五日頃登記簿上矢ケ崎矢七名義となつていた本件農地を金子猛夫より買受け、同月一六日中間省略により矢ケ崎から桜井への所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、さらに農地法五条所定の東京都知事の許可申請手続をとつたが、同農地は既に東京都住宅公社の買収予定地となつていたため、その申請が許可されなかつたことについては当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない甲第五ないし第八号証、第一五、第二六号証、乙第二、第四号証に証人大野隆夫、同桜井治兵衛の各証言および原告本人尋問の結果ならびにこれらによつて成立を認めうる甲第一四、第一六、第一七号証、第一八ないし第二四号証、(第一八、第一九、第二三、第二四号証中各銀行作成部分については成立に争いがない。)第二五、第二七、第二八号証を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  桜井は、前記のごとく本件農地を買受けたものの、農地法五条の都知事の許可を得ることができないので困つていたが、右売買を仲介した大竹不動産にいたことがあり、住家も近くにああつたためかねてから顔見知りの柴田繁久が昭和三八年二月初頃桜井方を訪れ、「目下自分は大野不動産社の専務をしている。東京都住宅公社の買収予定地でもよいから右農地を同会社において買受けたい」と申入れた。そして、柴田は社長に見せるためおよび契約書を作成するため必要があるので権利証など必要書類を貸してくれというので、その言葉を信用した桜井は、本件農地を大野不動産社に売ることを承諾し、手形による支払を了承したうえ、売買契約書用紙に同人の捺印したもの二通、白紙の仮領収書、仮登記済証、印鑑証明書各一通に前記矢ケ崎の白紙委任状と印鑑証明書、土地代金領収書の写などをそえて柴田に手交した。

(二)  柴田は本件農地の売却方の仲介を大野不動産社長大野隆夫に頼んだところ、同人はたまたま中尾物産貿易株式会社社長中尾武より原告の本件雑種地購入の仲介依頼を受け、原告からも代替地があれば同土地を売つてもよいとの返事を得ていたので、本件雑種地を中尾に譲渡し、その代りに原告には本件農地を取得させることを考えついた。そこで大野は、柴田を介して桜井との間に本件農地の売買契約を結び(買主は大野不動産社)、柴田より同人が桜井より受領していた前記書類一切を受け取つた。そして、原告と大野は本件農地を約一一、〇〇〇、〇〇〇円、本件雑種地を約六、〇〇〇、〇〇〇円と評価し、その差額は原告が大野に対して有する債権約五、〇〇〇、〇〇〇円をもつて充当することの含みのもとに右両土地を契約上は等価で交換する旨の合意をなし、ただし、前記経過で入手した桜井の押印がある土地売買契約書用紙を利用して、中間省略により売主を桜井名義、買主を原告とし、特に代価の支払の点では「買主は代金のかわりとして買主所有の西多摩郡福生町字奈賀八八六の三宅地一六二坪(本件雑種地)を等価で引渡すものとする」旨を明記し、日付を昭和三八年二月一〇日とする契約書(甲第三号証)を作成のうえ、相互に権利移転に必要な書類を手交しあつた。

原告は同年二月一四日受付で本件農地につき同人名義に所有権移転請求権保全の仮登記移転の付記登記を経由し、大野は中尾より本件雑種地の売買代金支払として金額合計

四、六五〇、〇〇〇円の小切手、約束手形を受領し、これを柴田を通じて桜井に本件農地の代金として交付した。しかしながら、右小切手・手形はいずれも期日に支払いが拒絶された(このことは当事者間に争いがない。)ので、桜井は、柴田に対し大野不動産社との本件農地売買契約を解除する旨の意思表示をして先に渡した権利移転の関係書類を返戻するよう求めたが、柴田が言を左右にして遷延するうち、昭和三九年九月頃同土地につき原告名義の右仮登記が経由されていることを発見し、それまでは買主が大野不動産社であるとばかり信じていた桜井は驚いて原告を相手方として立川簡易裁判所より同年一二月二日付処分禁止の仮処分命令を得た。

(三) 他方、原告は、本件農地を前記交換によつて取得して数か月を経た頃農地法五条の許可申請手続をするため登記簿上の所有名義人矢ケ崎を訪ね、その協力を求めたところ、同人より本件農地については東京都住宅公社の買収予定地になつていて右許可を得る見込がないことを聞知し、大野に対し前記交換契約を解除する旨を通知し、本件雑種地の所有権を返還するよう要求したが、同土地は既に中尾武、三浦一夫と順次移転し、関決靖策の担保に供されるなどしているため、今更原告に返すことは事実上不可能であつた、そこで、原告が右公社を相手どり自分を実質上の所有者として買収するよう折衝していたその矢先、桜井より前記仮処分がなされた。

三、こうした両者の紛争につき責任を感じた大野は、昭和四〇年四月上旬桜井と原告間の仲裁に努めた結果、同月一〇日右両者間において覚書が作成されたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第四、第六号証に証人大野隆夫、同桜井治兵衛、同得丸大典の各証言ならびに原告本人尋問の結果とこれらによつて成立を認めうる甲第九号証、乙第一、第三号証に右争いのない事実を総合すると前示四月一〇日桜井より原告に対し、二、二〇〇、〇〇〇円を支払つて原告は本件農地につき原告の仮登記を抹消するとともに何らの権利をも主張しない旨の合意が成立し、その旨の前示覚書が作成されたものであること、右合意の趣旨とするところは、本件農地をめぐる両者の紛争を解決するために、東京都住宅公社による本件農地の買上価額四、四〇〇、〇〇〇円の半額にあたる二、二〇〇、〇〇〇円を桜井より原告に支払い、後日大野から桜井に対してその分を補填することを内容とするものであつたことが認められ、これによれば少くとも原告についてみれば、形式的にはもとより、実質的にみても、本件雑種地と本件農地との交換により本来原告が、取得すべかりし本件農地の所有権を前記事情により原告が取得できないこととなつたので、これを金銭の支払いによつて解決するために桜井より原告に右金額を支払い、それと引換えに本件農地に関する原告名義の所有権移転請求権(仮登記ずみ)を桜井に返戻することにしたものであつて、結局のところ、前示原告が受領することになつた二、二〇〇、〇〇〇円は本件雑種地の対価たる性質を有し、その譲渡所得であると認定するのが相当である。

四、もつとも、原告は本件農地につき同人名義の所有権移転請求権移転の仮登記をする際、その登記原因たる譲渡日を昭和三八年二月五日としており、他方、本件雑種地に関する中尾の所有権移転登記の登記原因たる売買も同月九日付でなされており、いずれも前記認定の土地交換契約の日時(同月一〇日)の以前であることは被告の指摘するとおりであるが、これらの登記は前者につき同月一四日、後者につき一二日の受付であつて右交換契約より後日であること、一般に登記原因の日時は必ずしも実体に符合するものではないこと、原告本人尋問の結果によれば、本件当事者もその点につき余り重要視していなかつたことが窺われることなどに徴すれば、これをもつて右認定を動かしうるものではない。

なお、証人大野隆夫の証言によると、大野は本件土地取引には個人として関与したものである旨述べているが、この点は前示認定に供した他の各証拠に照し信用できない。

五、原告本人尋問の結果とこれによつて成立を認めうる甲第一〇ないし第一三号証(甲第一一号証中農業委員会作成部分については成立に争いがない。)によれば、原告は昭和三五年一一月二二日秋山佐右助から代金二、一〇〇、〇〇〇円で本件雑種地を買受け、その所有権を取得したものであることが認められる。

第三、叙上の各認定を覆すに足りる証拠は他にない。そして同認定事実によれば原告が桜井より受取つた二、二〇〇、〇〇〇円は被告主張のごとく紛争解決のための和解金として雑所得と目すべきではなく本件雑種地の対価たる譲渡所得と認めるべきであつて、その取得価額は前記のとおり 二、一〇〇、〇〇〇円であるからその差額一〇〇、〇〇〇円が所得となるべきところ、これについては所得税法上その全額につき特別控除が認められている(三三条四項)から、被告が 二、二〇〇、〇〇〇円の雑所得ありとして原告の昭和四〇年分所得額の算定に当りこれを加算したのは違法である。

もつとも、被告の主張する雑所得額のうち、原告が桜井に対する貸付金の利息として受領した六〇、〇〇〇円については原告も自認して争わないところである。

そうすると、被告の本件更正処分のうち、原告の主張する総所得金額一、六〇三、三一九円(これに対する所得金額九二、四二〇円)に右雑所得額六〇、〇〇〇円を加算した合計 一、六六三、三一九円を超える金額を総所得金額として計算した部分は違法であつて取消すべきであるから、原告の本訴請求はその限度で認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 牧山市治 裁判官 上田豊三)

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